【バリ山行_レビュー】登山と人生を重ね合わせた、芥川賞受賞の純文学バリ山行_レビュー【バリ山行_レビュー】登山と人生を重ね合わせた、芥川賞受賞の純文学

バリ山行_レビュー
  • 商品名: バリ山行
  • キャッチコピー: 圧倒的生の実感を求めて山と人生を重ねる純文山岳小説
  • カテゴリ: 文学・評論
  • 販売元: 講談社
  • 価格: 1,760円(記事制作時点での価格)
  • 発売日: 2024年7月29日
  • 商品リンク(アフィリエイトではありません):https://www.amazon.co.jp/dp/4065369606

概要

第171回芥川賞を受賞した松永K三蔵の長編小説。建築外装修繕会社に勤める主人公・波多が、会社の登山部に参加するうちに、危険な「バリ山行」にのめり込んでいく様子を通して、人生と登山を重ね合わせて描く作品。

商品の特徴

  • 第171回芥川賞受賞作
  • 登山を通じて人生や会社の人間関係を描く
  • 六甲山を舞台にしたリアルな登山描写
  • 168ページのコンパクトな長さ
  • 「純文山岳小説」と称される新しいジャンルの作品

登山と人生を重ね合わせた物語

本作「バリ山行」は、建築外装修繕会社に勤める波多が、会社の登山部に参加するところから始まります。当初は気楽な活動として参加していた波多ですが、孤立したベテラン社員・妻鹿が行っている危険な「バリ山行」(正規の登山路を外れた難易度の高い登山)に興味を持ち、次第にのめり込んでいきます。

物語は、登山という行為を通じて、会社の人間関係や主人公の内面の変化を鮮やかに描き出しています。特に、六甲山を舞台にしたリアルな登山描写は、著者の経験に基づくものと思われ、読者を山の世界に引き込みます。

「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。」という本文中の一節が、この作品のテーマを端的に表しています。

編集部員Impression

「バリ山行」を読了して、まず感じたのは、その文体の洗練さと描写の鮮やかさでした。松永K三蔵の筆力が、登山という特殊な世界と日常の会社生活を見事に融合させています。

本作の最大の魅力は、登山という行為を通じて人生や社会を見つめ直す視点にあります。「バリ山行」という危険な登山に挑戦することで、主人公が自身の人生や周囲との関係性を再考していく様子が、繊細かつリアルに描かれています。

特に印象的だったのは、六甲山の描写の細やかさです。実際に六甲山を知る読者からも、その描写の正確さと臨場感が高く評価されています。これにより、登山経験のない読者でも、山の世界に没入することができます。

また、会社の人間関係や主人公の家庭生活の描写も秀逸です。日常生活の中にある小さな葛藤や喜びが丁寧に描かれており、多くの読者が共感できる要素となっています。

一方で、本作には若干の課題も感じられました。例えば、一部の読者からは、使用されている漢字が多すぎて読みづらいという指摘がありました。また、登山に馴染みのない読者にとっては、専門用語や状況説明が不足している部分があるかもしれません。

しかし、これらの点を考慮しても、本作が持つ文学性と人間ドラマの深さは、十分に読者を魅了するものです。松永K三蔵の筆力が、登山という特殊な題材を通じて、現代社会に生きる人々の姿を鮮やかに描き出しており、読了後も長く余韻が残ります。

「バリ山行」は、単なる登山小説ではありません。それは、現代社会を生きる人々の孤独や葛藤、そして生きる喜びを描いた純文学作品です。松永K三蔵の鋭い洞察力と描写力が、読者の心を揺さぶり、人生について深く考えさせる作品となっています。

本作は、文学愛好家はもちろん、登山に興味がある人、そして日常生活に何かしらの閉塞感を感じている人にもおすすめです。168ページというコンパクトな長さながら、読了後に深い余韻を残す、芥川賞にふさわしい傑作だと言えるでしょう。

読了後、きっと多くの読者が自身の人生を「山行」に例えて考えてみたくなるはずです。日常生活の中にある「バリ」な瞬間を見つけ出し、そこから新たな視点や生きる喜びを見出すきっかけになるかもしれません。