【ショートケーキ。_レビュー】甘い贈り物が心を癒す、5つの優しい物語

ショートケーキ。_レビュー
  • 商品名: ショートケーキ。
  • キャッチコピー: 甘い贈り物が心を癒す、5つの優しい物語
  • カテゴリ: 文学・評論
  • 販売元: 文藝春秋
  • 価格: 704円(記事制作時点での価格)
  • 発売日: 2024年9月4日
  • 商品リンク(アフィリエイトではありません):https://www.amazon.co.jp/dp/416792272X

概要

『和菓子のアン』で知られる坂木司が贈る、ショートケーキをテーマにした5つの短編集。日常の中で立ち止まり、悩み、鬱屈を抱える人々の心に、ひとすじの光をもたらす「甘いもの」の魔法を描いた温かな物語。

商品の特徴

  • ショートケーキをめぐる5つの短編を収録
  • 日常の中での小さな幸せや癒しを描く
  • 坂木司特有の優しく温かな文体で描かれる人間ドラマ
  • 食べ物の描写が生き生きとしており、読後にショートケーキが食べたくなる
  • 軽く読めるが、人生や家族、恋愛について考えさせられる内容

心に寄り添う5つのストーリー

「ホール」

大学生の<ゆか>と<こいちゃん>が主人公の物語。父親が出て行ってから買えなくなったホールケーキを求めて、「失われたホールケーキの会」を結成する二人。離れて暮らす父親からの連絡をきっかけに、家族の絆や成長について考えさせられる温かな物語です。

「ショートケーキ。」

ケーキ屋で働く青年の視点から描かれる物語。常連の二人組女子が丸いホールケーキにこだわる理由や、元気のない姉の様子など、日常の中の小さな謎解きが楽しめます。人々の人生の断片を垣間見る、ケーキ屋ならではの視点が新鮮です。

「追いイチゴ」

ケーキ屋で働く女性の「秘密の趣味」を描いた物語。嬉しいことがあったときに行う、ちょっと変わった「儀式」を通して、仕事や人生の喜びを感じる様子が描かれています。読者に「自分だけの幸せの形」を考えさせてくれる作品です。

「ままならない」

子育て中の母親・<あつこ>を中心に描かれる物語。ママになって変わってしまった日常に戸惑いながらも、大好きなショートケーキを一人で味わう時間を求めて奮闘する姿が描かれています。同じ境遇の女性たちと結成する「互助会」を通して、母親たちの連帯と癒しを描いた心温まる作品です。

「騎士と狩人」

28歳の会社員・<央介>を主人公とした物語。受け身な性格で「嫁に行きてえ」が口癖の彼が、会社の経理担当の女性に興味を持ち始めるところから物語は展開します。仕事や恋愛に消極的だった主人公が、少しずつ前を向いていく様子が、ショートケーキを通して描かれています。

編集部員Impression

『ショートケーキ。』を読み終えて、まず感じたのは「優しさ」と「温かさ」です。坂木司さんの繊細な筆致が、日常の中にある小さな幸せや人々の機微を見事に描き出しています。

特に印象に残ったのは、各話に登場するショートケーキの存在感です。単なる食べ物ではなく、人々の心を癒し、時に背中を押し、時に思い出を呼び起こす「魔法のアイテム」のような役割を果たしています。例えば「ホール」では、ホールケーキが家族の絆を象徴するアイテムとして描かれ、主人公たちの成長と家族との関係性の変化を巧みに表現しています。

また、「ままならない」の話では、子育てに奮闘する母親たちの姿が、リアルかつユーモアを交えて描かれており、多くの読者の共感を呼ぶことでしょう。ショートケーキを一人で味わう時間を求める彼女たちの姿に、現代の母親たちが抱える悩みや葛藤が凝縮されているように感じました。

坂木さんの文体は、読みやすさと深みを兼ね備えています。一見すると軽やかな日常の描写の中に、人生や家族、恋愛についての深い洞察が織り込まれており、読み終わった後も長く余韻が残ります。

特筆すべきは、食べ物の描写の巧みさです。ショートケーキのスポンジのしっとり感、生クリームのふわふわとした口当たり、苺の甘酸っぱさなど、読んでいるだけで口の中に味が広がるような錯覚を覚えました。これは坂木さんの『和菓子のアン』シリーズでも発揮されていた才能ですが、本作でもその真骨頂が遺憾なく発揮されています。

本書は、忙しない日常に追われる現代人に、ほっと一息つくような癒しの時間を与えてくれます。ショートケーキという誰もが親しみやすいモチーフを通して、人々の心の機微や人間関係の機微を描き出す坂木さんの手腕は見事としか言いようがありません。

読み終わった後は、不思議と心が軽くなり、身近な人とショートケーキを分け合いたくなるような温かな気持ちになります。日常に疲れを感じている人、人間関係に悩んでいる人、そして単純に心温まる物語が読みたい人に、ぜひおすすめしたい一冊です。

坂木司さんのファンはもちろん、普段あまり小説を読まない方にも手に取りやすい作品だと思います。この本を読んだ後、きっと多くの人が近くのケーキ屋さんに足を運びたくなるはずです。そして、大切な人と一緒にショートケーキを囲みながら、この本で描かれていたような小さな幸せのひとときを過ごすことができるでしょう。