【星が人を愛すことなかれ_レビュー】推される側の”恋”と”生”を描く衝撃作

星が人を愛すことなかれ_レビュー
  • 商品名: 星が人を愛すことなかれ
  • キャッチコピー: 推される側の”恋”と”生”を描く衝撃作
  • カテゴリ: 文学・評論
  • 販売元: 集英社
  • 価格: 1,650円(記事制作時点での価格)
  • 発売日: 2024年8月26日
  • 商品リンク(アフィリエイトではありません):https://www.amazon.co.jp/dp/4087901742

概要

令和最注目の作家・斜線堂有紀が贈る、待望の短編集。地下アイドルやVTuberなど、現代的な”推される側”の視点から描かれる恋と人生の物語に、読者は衝撃を受けること間違いなし。

商品の特徴

  • 地下アイドルグループ「東京グレーテル」を中心に展開する4つの短編を収録
  • 推される側(アイドル)の視点から描かれる、リアルな恋愛と人生模様
  • ウェブ掲載作品に加え、書き下ろし短編も収録
  • 現代的なテーマ(VTuber、SNS炎上など)を鋭く切り取る
  • 斜線堂有紀の独特の文体と描写力が光る作品集

現代のアイドルカルチャーを鋭く切り取る4つの物語

『ミニカーを捨てよ、春を呼べ』

地下アイドルグループ「東京グレーテル」のメンバー・冬美の視点から描かれる物語。恋人・渓介と結婚を意識しつつも、彼の「推し」であるグループメンバー・赤羽瑠璃の存在に翻弄される姿が、リアルに描かれています。「推し」と恋人、どちらが本当に愛されているのか?という問いかけは、現代の恋愛観を鋭く突いています。

『星が人を愛することなかれ』

タイトル作品であり、本書の核心とも言える一編。元「東京グレーテル」メンバーの雪里が、VTuberとして活動する姿を描いています。100万人のファンに愛される人気VTuberとなった雪里ですが、その裏で失われていく私生活と恋人との時間。バーチャルな存在として愛される代償を払う彼女の姿は、現代のエンターテインメント業界の光と影を浮き彫りにしています。

『枯れ木の花は燃えるか』

「東京グレーテル」のメンバー・希美と、地下メンズアイドル・ルイの恋愛を描いた物語。ルイのファンとのスキャンダル写真流出をきっかけに、希美の復讐劇が始まります。SNS炎上や、ファンとアイドルの複雑な関係性など、現代のアイドル文化に潜む闇を赤裸々に描いた衝撃作です。

『星の一生』

「東京グレーテル」のカリスマ・赤羽瑠璃の視点から描かれる物語。かつてファンだった渓介に恋をし、ストーカー行為にまで及んだ彼女。しかし、渓介の結婚式の知らせを聞いてもなお、彼への想いを断ち切れない瑠璃の姿が、切なく描かれています。アイドルという立場と、一人の女性としての想いの葛藤が、読者の心を揺さぶります。

編集部員Impression

本書を読み終えて、まず感じたのは「衝撃」という言葉に尽きます。斜線堂有紀さんの鋭い洞察力と、リアルな描写力に圧倒されました。特に印象的だったのは、「推される側」の視点から描かれる恋愛と人生模様です。

私たちは普段、アイドルやVTuberを「推す側」の立場から見ることが多いですが、本書では彼女たちの内面に深く踏み込んでいきます。そこには、華やかな表舞台とは裏腹の、孤独や葛藤、そして切ない恋心が描かれています。

『星が人を愛することなかれ』では、VTuberとして活動する雪里の姿が印象的でした。バーチャルな存在として多くのファンに愛される一方で、現実の人間関係や恋愛が犠牲になっていく様子は、現代社会の縮図のようでもあります。技術の進歩と引き換えに、私たちが失っているものは何なのか。そんな問いかけを感じずにはいられませんでした。

また、『枯れ木の花は燃えるか』では、SNS炎上という現代的なテーマが鋭く切り取られています。アイドルとファンの関係性、そしてSNSがもたらす影響力の大きさ。これらのテーマは、エンターテインメント業界に限らず、現代を生きる私たちすべてに関わる問題でもあります。

斜線堂さんの文体は、時に冷徹で、時に詩的です。登場人物たちの心の機微を丁寧に描きつつも、決して感傷的になりすぎない絶妙なバランスが、本書の魅力をさらに引き立てています。

読み終えた後、しばらく余韻に浸ってしまいました。「推し」という言葉が当たり前になった現代社会。その中で、私たちはどのように人を愛し、自分自身を生きていけばいいのか。そんな深い問いかけを、本書は投げかけてくれています。

エンターテインメント小説としての面白さはもちろん、現代社会を鋭く切り取る社会派作品としても秀逸です。アイドルカルチャーに興味がある方はもちろん、現代の恋愛観や人間関係に疑問を感じている方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。斜線堂有紀さんの作品世界に、きっと多くの読者が魅了されることでしょう。